[経済転換]アパレル<1>ブランド服 積もる在庫…大量発注・生産 もはや限界
2020年9月22日 2:24 PM
新型コロナウイルスの収束が見えない中、アパレル業界の苦境が一段と深まっている。打開策はあるのか。再建に向けた各社の動きを追う。
半値以下で
8月下旬、東京・浅草の商業施設にブランド衣料を格安で買えるオフプライス店「アンドブリッジ」がオープンした。販売するのは、靴や雑貨なども含め7000点。百貨店では1万~3万円の値段が付いていた婦人服が、5~7割引きで売られている。
運営会社の松下剛社長は「店で扱うのは国内外の約150ブランド。新型コロナの影響で服が売れなくなり、在庫を抱えたアパレル企業からの買い取り依頼が増えている」と語る。浅草店は、さいたま市と相模原市に続く3店舗目で、運営会社にはアパレル大手のワールドなどが出資している。松下社長は「アパレル側が一番気にするのは、知らない店で服が売られ、ブランド勝ちが傷つくこと。『ワールドが出資しているなら、変な売り方はしないよね』という一定の信頼感もある」と打ち明ける。関東と関西を中心に、2023年3月までに25店体制に拡大する計画だ。
売れない服が行き着く先は、大阪・西成にもある。
有名ブランドのロゴがついた段ボールが積み上げられた倉庫。「問い合わせが増えたのは5年前くらいからですかね。」衣料品の在庫処分を手がける「shoichi」の山本昌一社長が振り返る。
全国のアパレル各社から売れ残りの在庫を買い取る。引き受けるのは年間約1000万着。おおむね定価の1割で買い取り、カンボジアやマレーシアなどの海外や国内の卸業者に売る。今後も引き合いが増えるとみて、事業拡大に向けて銀行に新たな融資を依頼したという。
コロナ追い打ち
バブル期の1980年代末から90年代初めをピークに、国内のアパレル市場は縮小が続く。少子化や低価格志向、価値観の多様化―。様々な要因が重なり、服を作っても売れないことが当たり前になった。
昨年は、10月の消費税率引き上げと暖冬が足を引っ張った。そこに追い打ちをかけたのが新型コロナだ。主要な販路である百貨店や大型商業施設は臨時休業を余儀なくされ、在宅勤務が増えたことでスーツやジャケットの需要も減った。
「23区」や「組曲」などのブランドを抱えるオンワードホールディングスの今年3~5月期の売上額は、前年同月比で35%減。とりわけ、百貨店向けが71%減と落ち込みが大きい。保元道宣社長は「これからは、人混みを避けるため都心に買い物に来る人も減るだろう」と厳しい見通しを語る。
早い陳腐化
長引く販売不振は、アパレル業界の構造にも一因がある。
国内市場の縮小や安価な輸入品の増加に対応するため、各社は海外での生産を拡大した。人件費が安い海外での大量発注、大量生産で価格を抑える狙いだった。1990年代までは国内生産の割合が半数だったが、現在は2%程度に過ぎない。
その分、機動性は失われた。
ファッションの世界は流行の移り変わりが早い。国内なら商品の企画から消費者の手に届くまで1、2週間で済む。中国では早くて1ヶ月、ベトナムやバングラデシュとなると半年から1年かかるとされる。
アパレル業界に詳しいコンサルタントの小島健輔氏は指摘する。
「半年後に売れると思って発注した商品が、当てが外れて大量の在庫になる。この20年はその繰り返しだった。戦艦から砲弾を発射してから数秒後なら敵艦に当たるが、10分もたったら外れるのと一緒ですよ」
消費者の多様な好みに対応するには、商品数を絞り込むこともできない。商品の陳腐化は早く、売れ残ればセールや値引きでさばく。アパレルのビジネスモデルは限界に近づいている。
5月に経営破綻した創業100年を超える名門、レナウン。元社員は「退職金はまだ受け取っていない。次の行き先が決まった人は10人に1人か2人程度ではないか」と語る。主力ブランド「ダーバン」を同業に譲渡することは決まったが、どれだけの社員の雇用が守られるかはみえない。
業界内では「コロナ前から、大手、中小とも手元資金は7ヶ月分程度が一般的だった。資金がそこをつけば、再編は加速する」(関係者)との声も聞かれる。生き残りに向け、残された時間は少ない。
【著者紹介】 山本昌一
株式会社shoichi代表取締役
所属団体:KanFa関西ファッション連合/日本繊維機械学会/JAFIC 一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会
大学在籍中からヤフーオークションでブランド商品・アパレル等の販売などを行い オークションで仕事をする自営業の道を選ぶ。 その後在庫処分ビジネスをスタートし、20年間在庫処分の業界に身を置く。 累計4000社のあらゆる在庫処分を手掛ける。
山本昌一プロフィール>>