P’s ANIMO No.109 2024 SUMMER 注目企業の人材マネジメント術 We Do!第18回 株式会社shoichi 共鳴する人こそ長く残る戦力
2024年8月15日 1:00 PM
業績目覚ましい企業には、社員との良好なリレーションシップや人材育成のノウハウが必ず存在する。そんな注目企業の“人材マネジメント術”をご紹介するシリーズ第18回に登場いただくのは、「shoichi」。
衣料品の廃棄0を目指してアパレルの不良在庫を引取り、循環させるビジネスで大きな注目を集めている同社の、独自の人材育成について伺った。
廃棄される衣料品の再流通・リサイクルを事業化
「shoichi」は、『クローズアップ現代』(NHK)、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)を始め、多くの情報番組や新聞、雑誌で、その先進的な取り組みを紹介されている企業だ。
SDGs実現を目指す社会の中で、同社のビジネスモデルそのものが注目されているのだ。
実は我々が身につける衣料品は、世界的に見ても地球環境問題を引き起こす大きな要因の一つとされている。国連貿易開発会議では、アパレル産業を全産業中、第2位の汚染産業と指摘しているほどだ。染色工程や化学繊維による水質汚染、途上国での低賃金による過剰生産に加え、大量廃棄の問題も大きい。毎年、季節ごとに新たなデザインで店頭に並ぶ衣類を全部売り切ることは難しい。シーズンが終われば不良在庫となる。日本では年間25億着が生産され、うち15億着が売れ残っていると言われる。世界で年間に破棄される衣類の量は約9200万tに及ぶという数字もある。
この問題を少しでも解決するには、トレンドに添い過ぎずに長期間着られる服作りや、過剰生産からの脱却などと共に、未着用品としての再流通や素材としての再生という方法も有効だ。
まさに、その分野に特化したビジネスを成立させているのがshoichiなのである。
元々、服が好きだった山本昌一社長は、大学在学中からネット上のオークションサイトで、ブランド品の中古衣類の転売をしていた。卒業後は独立の道を選び、ブランドアパレルのオークションビジネスを手がける中で、不良在庫破棄の問題を知ったという。
「商品を大切に思っていた私には、廃棄や焼却は悲しいこと。自分に出来ることはないかと考え、全国の大型問屋、大型販売店などの取引先ネットワークを生かして、自社のオンライン店舗と結んだ〝在庫処分ビジネス〞を考案しました」(山本社長)
2005年の創業以来、著名ブランドを擁するところや量販タイプまで、これまでの取引アパレルメーカーは約4000社。現在の取引量は年間約1000万着を数え、同社倉庫には常時100万着を保管しているそうだ。
各アパレルメーカーから買い取った〝不良在庫〞〝滞留在庫〞はどう処理するのか?
「先様のご希望を伺った上で、まずは再販経路からご提案します」
shoichiでは自社販売サイトの他、今は国内22カ所、海外6カ所の直営店を持つ。そこで再販売する他、卸売もする。次の段階としては海外に輸出もする。こうして2次流通させる品々は皆、アパレル側との契約により、全てのブランドロゴを取り外し、同社独自のロゴを付する。元ブランドを感じさせるようなボタンやアクセサリーなども取り去る。それらの流通に乗りにくい衣類は、リサイクルに回す。Tシャツは洗濯タグ、刺繍などを取り去ってから、アップサイクルなどの企業に販売。ウール製品ならやはり付属品を除き、糸に戻して、リサイクルウールとして再生させている。
現在、自社債は35%、卸売45%、海外輸出10%、リサイクル10%くらいの割合になっているそうだ。海外の直営店でも、価格が安い上、日本の商品は質が高いと好評を得ている。
教育はoJTをベースに面談で厳しく改善を促す
‟できない部分”をしっかり指摘する厳しさに ついてきてくれる人たちこそが財産です。
そこで働く人々は、同社の姿勢に共鳴して応募する場合がほとんどだ。
現在は正社員20人、外注20人、パート勤務20人の体制である。
若い世代が多いのも特徴的だが、年齢や職歴を問わない方針のため、高齢の人も多数働いている。平均年齢は37・8歳。
「服装も、髪型・髪色も自由です。ファッションを扱う仕事ですからね」
ただし、指導方針は厳しい。
「うちは昭和チックですよ。我々の世代が叩き込まれてきたやり方が間違っているとは思いません。
当たり前のことを当たり前にやれるように、ということに尽きます」
人材教育の基本はOJT。半年に一回、各部署の部長が面談して、多様な項目について何ができ、何ができていないかを点数評価する。
できていないことは、次の面談までに各自が克服すべき課題となる。
また、本人も日報で自身が改善すべき点を書く。書くことで自ら意識することを促すのだ。
「期待から始めるのではなく、マイナス評価からスタートしできるようになったら加点していく方式です。
今何ができていないかを指摘するのが、人材教育の根本だと私は思っています」
アパレルメーカーとの取引、実店舗やサイト運営、倉庫での多様な作業から総務まで仕事内容は多様だが、
どの部署でもこの基本方針は変わらない。
もちろん、部署ごとにマニュアルは整備している。パソコンが扱えない人は研修にも行ってもらう。
急な欠勤などに対応できるよう、1つの仕事は2人以上がこなせるようにもしている。
「〃伝える”より〃伝わる”を重視し、わからないことは何でも聞いてと言っています。
それでも聞かないしできないとなれば、忙しい先輩社員にとっては負担だし悲しいこと。
そうした人には辞めてもらっていいんです」
こうした厳しい姿勢によってか、同社でも2カ月程度で退職する率は高い。
それでいい、既存社員こそ大切にしたいのだと山本社長は言う。
「2カ月を過ぎた社員は皆、長く働いてくれています。残るのは会社の意義に本心から共感してくれる人。
だからチームワークは良好ですし、私たちがすべきことの方向性も揺るがない」
就労の自由度が高く、遊びを通じた教育も多彩
とはいえ、自己研鑽に委ねるだけではない。
飲み会は3カ月に1回。自由参加だが、呼びかければ30〜40%の従業員が集まる。そこではあえて仕事の話をする。
それがコミュニケーションにも、学びにもなる。
「知らない従業員同士では共通言語は仕事の話しかありません。それを避けるのはやる気がないということ」
ユニークなのが、年に2回開催する「クイズ大会」だ。
「通販部門で言う、SKUで上げておくとはどういう意味?」「物流部門で、この1年に改善された3項目は何?」
など、各部の部長が業務関連の問題を考えて出題する。これは、遊びの形を取った人材教育に他ならない。
正解者には、豪華景品も用意されている。
BBQ’海外社員旅行なども自由参加でしばしば実施している。
「海外には直営店もありますし、物資支援•ボランティア活動などもしています。まずは現地を知らなければ」
働き方も柔軟だ。9時〜17時の間、何時に出勤してもOK。事情に応じて在宅勤務やダブルワークも認める。
「自分の仕事ができればいいんです。すると、働ける人は格段に増えます」
山本社長自身は毎朝7時には出勤する。その姿は社員への刺激にもなる。
また障がい者支援として、物流倉庫内に就労支援A型作業所を運営し、障がい者の方々にタグのカット、
梱包などの作業に就いてもらっている。再流通への下処理を行ってもらい、それが大きな戦力となっている。
確かに昭和的であるかもしれない。しかしそれは、今の時代に即してアップデートされた、働き手の情熱を呼ぶ昭和スタイルだ。
途上国の子供達を助ける”TASUKEAI 0 PROJECT”
shoichiTは衣料品引き取りとあわせ、貧困に悩む途上国の子供達の支援にも取り 組んでいる。
売上の一部をカンボジアなど の現地NPOに寄付する他、衣料品の提 供、食糧支援なども行う。
取引先アパレル側が支援に参加できる仕組みも整えた。
山本社長は年1回はカンボジアなどの支援先を訪れるなど、活動を続けている。
【著者紹介】 山本昌一
株式会社shoichi代表取締役
所属団体:KanFa関西ファッション連合/日本繊維機械学会/JAFIC 一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会
大学在籍中からヤフーオークションでブランド商品・アパレル等の販売などを行い オークションで仕事をする自営業の道を選ぶ。 その後在庫処分ビジネスをスタートし、20年間在庫処分の業界に身を置く。 累計4000社のあらゆる在庫処分を手掛ける。
山本昌一プロフィール>>